メインプログラム・アーティスト栗林隆+Cinema CaravanTakashi Kuribayashi + Cinema Caravan
<アーティストコメント>
20代の頃、オーストラリアのグレートバリアリーフに船で旅することがあった。初めてのダイビングにもかかわらず、2m近くのサメがウヨウヨ泳ぐ透き通った世界にも、何百匹いるか分からないオオトカゲだらけの無人島にも痺れさせられた。
そんな多くの体験の中で、戦慄に、そして強烈なインパクトを与えた風景、場所があった。それが船の墓場である。そこは海図に載っている訳でもなく、知る人ぞ知る海域であり、保険金目当ての船主たちが、古くなった船をわざと座礁させ、保険金を貰っている場所なのだと聞いた。360度見渡す限り何もない大海原に、何十という大きなタンカーが座礁し捨てられているのである。その中にはパイレーツオブカリビアンに出てくる幽霊船の様な古い船も座礁しており、夕陽を浴びて現実とは思えない不思議な世界が広がっていた。その時の妄想が、このプロジェクトの始まりであった。
そのタンカーたちは、嵐や台風の影響でその場所を離れ、きっと世界中の海を彷徨っているのだろう。そして渡り鳥は休むためにとまり、彼らが連れてきた生き物や植物が根を下ろし、やがて船全てを覆うほどの森となる。世界中の植物や生き物達がそのタンカーの上で育ち続け、一つの大きな生態系を作りタンカーの世界を作り上げる。そんな大きく細やかな妄想から、タンカープロジェクトは始まったのである。
<プロフィール>
栗林隆は東西統合から間もないドイツに滞在した活動初期の頃から「境界」をテーマに大がかりなインスタレーションを中心に多様な作品を発表。日本とインドネシアを往復しながら活動し、国内外の展覧会に招聘されている。その栗林と2009年から共に活動を始めたCinema Caravanは神奈川県逗子市で開催された第一回逗子海岸映画祭(2010)のメンバーを中心に発足。写真家、大工、料理人など多様なメンバーによって構成されるコレクティブで映画にとどまらず、人や文化を繋ぎ共有体験を生み出す媒体となっている。昨年ドイツで開催されたドクメンタ15に参加し作品「蚊帳の外」を拠点に会期中にさまざまなイベントを行った。
栗林は、2022年のドクメンタ15にて、栗林隆+Cinema Caravanで発表した《元気炉四号機》を評価され、 芸術選奨文部科学大臣賞を受賞している。