ホーム

THEME今年のテーマ

ハルはアケボノ

ひかルつながルさんかすル

人をとりまく周りの世界は、いにしえと現代では、その様相は一変した。しかし、様は変われど、いつの世も、人は「自分の外との対話」を行ってきた。
「春はあけぼの…」は、清少納言によって書かれた「人と自然との対話」の随筆「枕草子」の一節である。あれから約1000年、現代の「自分の周りの世界との対話」は、目覚ましい技術発展によりその密度とスピードを増し、今や人と人のみならず、人と都市環境、人と地球…自分の周りの全てと交信できるメディアへと変容してきた。やがては、自分が辿り着けない世界と自分の身体がつながる時代がやってくるであろう。
私たちの身体感覚は拡張し、知覚、認識感覚は融解し、自分と自分以外の境が、今と今以外の時間の区切りが、消滅する。
そんな時代だからこそ「春はあけぼの…(春は明け方がいい…)」の感覚・趣=おもむきを見失わないようにしよう。
陽が沈み、陽が昇る。その変わらぬ周期のなかに人がいる。私たちの周りの環境が、それに伴う人の生活がどれだけ変わろうが、西の空に陽が沈み、東の空に陽が昇ることは変わらない。
2015年4月25日18時22分に、東京・六本木の西の空に陽が沈む。やがて、メディアアートをフィーチャーした2015年の六本木アートナイトが幕を開ける。数十万人の人々がさんかし・六本木の都市とつながり・夜の世界がひかりだす。六本木の全てがメディアになり、時間の境が消滅しそうになり、1時間が1秒になり、身体が拡張したような心持ちになり、宇宙の星に触れんばかりの気分になる。しかしどれだけその境が消滅しようとも…、2015年4月26日4時56分に、六本木の東の空に陽が昇る。
「ハルはアケボノ」のその瞬間に、時間と身体は一分の一の等身大の身の丈へと戻っていく…。変化の激しいこの時代に、いにしえの時代からの変わらぬものがある。
そして、メディアアートが1000年後の世へと火を灯す。

六本木アートナイト2015 アーティスティックディレクター
日比野克彦